サプライズ

2月10日、23時40分。
明日は祝日なので、のんびりと春○ミの原稿を進めていると、日本の携帯電話がなった。
着信音は『星条旗』。アメリカからの電話だ。
「はい。もしもし、日本です」
『やあ日本!久しぶり!』
「お久しぶりです、アメリカさん」
いつも通り、時差を考えずに電話をしてきたものらしいと思った日本は、それでも今まさに眠ろうとしていたわけでもなかったので、嗜める気もなく普通に返事を返した。
『日本、いきなりですまないんだが、今からライブチャットできるかい?』
「ライブチャット、ですか?……ええ、構いませんが」
CCDカメラを取り付けているパソコンは目の前にある。起動させればすぐにライブチャットは可能だ。
ただ、これは仕事用として経費で購入したもので、遊びで使用するのはいけないのだが……まあ、たまには使っておかないと、使用法を忘れるから、今回くらいはいいか。
肩と顎で携帯電話を挟んで、パソコンの電源を入れる。いろいろとカスタマイズしてあるので、立ち上がりは早い。
23時47分。ライブチャットにログインした。
アメリカは先にログインしていて、画面には朝の光に包まれた、いつも通りごちゃごちゃしたアメリカの部屋とアメリカが映し出された。
『やあ、日本!元気そうで何よりだよ!』
「ええ、アメリカさんも」
改めて挨拶を交わす。
『いやあ、寝てなくてよかったぞ』
言われて、ちゃんと時差は考えてくれたのだと知って少しだけ驚いたが、日本は顔には出さない。
「まだ日付も変わっていませんから。今はちょっと落書きをしていました」
『それ、マンガだろ?日本が描いたマンガ、俺も読みたいぞ!今度読ませてくれよ!』
「……自分が描いたものを知り合いに読まれるのは恥ずかしいですが……」
ご所望でしたら今度、と言うと、アメリカは嬉しそうにやったぞ!、と言った。
「アメリカさん、今日はお仕事に行かれなくてもいいんですか?」
『ん?ん〜……、うん。後でちょっと仕事しないといけないけどね。議会には行かなくていいんだ!』
仕事をしなければならないにしては、アメリカの格好はラフなものだ。準備をしなくてもいいのだろうか。
そもそもなぜいきなりライブチャットなど、と思ったが、アメリカは実にどうでもいい世間話ばかりを振ってきた。
それでいて、画面の右下にある時計のほうにちらちらと視線をやっているので、日本は余計に不審に思った。
「あの、御用事がおありでしたら、またの機会に……」
『ああ、ちょっとだけ!ちょっと待っててくれよ!』
あとちょっと、と慌てるアメリカに、日本は首を傾げるしかない。
「はあ……」
『うん。あともう少し。10、9、8、………』
アメリカがなにやらカウントダウンを始めた。日本は目をぱちくりさせてその様子を見ている。
『5、4、3、……』
2、1、と数えた瞬間、画面の左右から金髪が2つ顔を出した。
「わっ!」
『『『Happy Birthday!日本!(さん)』』』
突然の登場と声を揃えて言われた言葉に、日本は目をまん丸に見開いた。
「えっ……ええっ!?」
『ええ?って、今日は君の誕生日だろう?』
アメリカは、やった、一番乗りだぞ!といたずらが成功した子供の顔で笑っている。
『お誕生日おめでとうございます、日本さん』
アメリカの右から顔を出したカナダが、ほんわかとした笑顔で言った。
『日本、誕生日おめでとう。驚かせて悪かったな。この馬鹿が、『仕事の前にやりたいことがあるんだ!』とか言い出しやがってよ』
仕事で来ているらしい、きっちりとスーツで固めたイギリスがちょっと照れたように祝ってくれる。
それで、改めて認識した。
今日は建国記念日。自分の誕生日だ。
『なんだい、もしかして忘れてたのかい?』
大事な日だろう、と言うアメリカに、まだ驚きから抜け出せていない日本は呆然と頷いた。
「ええ。今日は祝日だと言うことしか考えてませんでした」
国民にとっては、今日が何のための祝日かなど重要ではないからか。日本もすっかり自分の誕生日を忘れきっていた。
「ありがとうございます、みなさん。びっくりしましたが、とても嬉しいです」
正直に言えば、画面の向こうでは三者三様で嬉しそうな顔をしている。
『一緒にお祝いするために、カナダもうちに呼んだんだぞ!』
『朝の4時に電話してくるんだもん。びっくりしたよ。前日に連絡してくれよ』
『呼んであげたんだからいいじゃないか!』
『でもさ、それにしたって……』
『こら。喧嘩すんな』
画面の中でのひと悶着にくすくす笑っていると、メールの着信音が響いた。
画面を開いてみると、大量のメールが一度に来ている。どうやら負荷がかかりすぎて、受信に時間がかかったらしい。
ヨーロッパ、アジア、アフリカ、アラビア、南アメリカ。いろいろな地域から、時差もあるというのに、ぴったり日本の0時に合わせてメールを送ってくれている。
それが嬉しいやら申し訳ないやらで、日本はちょっと泣きそうなほど幸福な気持ちになった。
「本当に、ありがとうございます」
カナダのほっぺたを引っ張ろうとしたアメリカと、それを嗜めようとしたイギリスと、自分の頬を庇おうとしていたカナダが、日本の笑顔に嬉しそうに笑った。
友人の幸せが、自分のそれだと表すように。
『『『これからもよろしく(な)!』』』
そう返答する声は、揃えるつもりもなかったのだろう、画面の向こうで互いに顔を見合わせながら笑っていた。
日本はそれにくすくす笑いながら、改めて幸せを噛み締める。
『プレゼントは今日中に届くはずだぞ!楽しみにしててくれよ!』
『気に入ってもらえればいいんですが』
『……まあ、趣味に合わなかったら捨ててもいいぞ』
これまた三者三様に同じ内容の事を言って、ライブチャットは終わった。
幸せな気分でチャット画面を閉じて、日本はいまだ握ったままだった携帯電話を見下ろした。
「さて、こちらに返信をいたしましょうかね」
きっとパソコンのほうのメールボックスも大変なことになっていることだろう。
さても幸せな、大量のお返事だ。
それでもちっとも苦には思わず、日本はまず全てのメールに目を通すべく受信トレイを開いた。

その日、日本のとある場所にある『本田』と言う表札が掛かった家には、軽トラックに1台分のプレゼントが届いたとか。



建国記念日SS。

2009,02,11



+ブラウザバックで戻ってください。+

[PR]動画