一番のプレゼント

主役自ら催したパーティは、彼の性格を反映して、懐深くも派手なものになった。
「みんな、今日は楽しんでってな〜」
という、いつも通りののん気な、しかし格好だけはきちんとした主催による乾杯の音頭に、皆声を揃えてグラスを掲げる。
統一感があるのはその瞬間のみで、後はみんな好き勝手に騒ぎ放題だ。
ある意味いつも通りのことだが、今日はそれにお祝いの華やかさが混じる。
ホストであるスペインは、手製の料理で客をもてなしながら、自分もマイペースに楽しんでいた。
スペイン手製の料理は、瞬く間に皆の胃袋に消えていく。
客が持ち込んだ酒や料理も全部開けて、スペインは皆でそれを楽しんだ。
「今日は遠いところ来てくれてありがとうな!」
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございました」
招待客の送り出しも終わり、片づけを手伝ってくれた日本達も送り出した。残るのは、今夜泊まって行くイタリア兄弟とフランスだけだ。
友人たちの姿が見えなくなってやっとドアを閉め、スペインは満足げなため息をついた。
「はあ。今年もよう騒いだなあ」
呟いた瞬間、風呂のドアが乱暴に開いて、シャワー上がりのロマーノがスペインのバスローブを勝手に使って出てきた。
「風呂あいたぞ」
「何で俺のバスローブ勝手に使うとんの……」
今も昔も、ロマーノがスペインの家で遠慮などすることはない。
呆れるスペインに全く構わず、ロマーノは勝手に残っていた飲み物を冷蔵庫から漁り、さっさと2階にある客間に歩いていってしまった。
「うう、相変わらずやなあ」
プレゼントも、ヴェネチアーノから『俺たちから!』と美しいグラスのセットをもらったが、明らかにヴェネツィア……<北>イタリア産だった。
元親分への心遣いはまったくなしか、とちょっぴり悲しくなりながら、仕方なく代えのバスローブを用意してシャワーを浴びた。
さっぱりして、風呂上りに何か飲もうと冷蔵庫を開ける。
「……ん?」
そこに、大振りな紙袋が鎮座しているのを見つけて、スペインは目を丸くした。
その辺の商店で買い物をしたら入れられるような、チープな紙袋。見覚えのないそれが、冷蔵庫の一番手前に『見ろ!』と言わんばかりに置いてある。
「何やろ?」
もらったものも、用意したものも、食料はほぼ全て封を開けて入っているはずだった。そもそも紙袋ごと中に入れたりはしない。
不思議に思って持ってみれば、それは結構な重量があった。
何が入っているのかと、不思議に思いながら紙袋の綴じ目を開けてみて。
そこに、書いてある文字に目を丸くした。
『!Feliz cumpleanos!』
スペイン語で、『お誕生日おめでとう』の言葉だ。それが、紙袋の内側に、ボールペンで小さく書かれている。
……教えたのは、一体何百年前の事になるだろう。
ふとそう思って、スペインは口端を吊り上げた。
袋の中身……南イタリア名産のリモンチェッロを見るまでもなく、それが誰の字か分かった。
「……相変わらず、下手くそな字ぃやなあ」
そう呟く声は、笑いを含んで柔らかい。
紙袋を大事に懐に抱えて、結局何も飲まないままスペインは冷蔵庫を閉めた。
……一緒に飲んで、のんびり夜を過ごすんも悪くないな。
そう思って、グラスを2つ用意して階段をのぼる。
あてがった客室は、かつて彼に自室として与えたものだった。
そちらに向かいながら、スペインは今日もらった中で一番嬉しいプレゼントを、落とさないよう大事に抱えなおした。



スペイン親分のお誕生日記念SS。

2009,02,12



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