Egg Hunt

「さあ、イースターバニーが卵を隠したぞ!」
「「わ〜い!」」
イギリスの掛け声に、小さなアメリカとカナダは歓声を上げながら同時に庭に飛び出した。
イギリスが作らせた、アメリカの家の庭である。王国の人間が好むように、色とりどりの花が咲いている。
今は春。ひらひらと蝶が舞う中、イギリスの二人の弟たちもそれに混じって庭を走り回っていた。
今日は復活祭だ。イギリスはカナダをつれて昨日のうちにアメリカの家に来ており、二人が眠っている間にこっそりと庭にイースターエッグを隠しておいた。
朝ごはんがすんだら、アメリカが早く早くと急かしだしたので、午後のお茶の時間くらいに始める予定だったエッグハントは昼前に開始されることになったのだった。
幼い弟達は、イギリスが隠した色とりどりのイースターエッグを見つけるのにすぐに夢中になった。
「あっ!また見つけたんだぞ!」
「わー、すごいねアメリカ!」
カナダはおっとりしているから、スピードを競うようなゲームではアメリカに勝てたことがなかった。今も、アメリカは三つ目を見つけたのに、カナダは一つしか見つけていない。
それでも、カナダはマイペースでアメリカが発見するたびに一緒に喜ぶし、アメリカもカナダが見つけられたときには大声で歓声を上げた。
アメリカは、次に見つけるのはどんな柄の卵だろうか、とワクワクしながら草の中や花の陰を次々探していた。
その時、不意に顔を上げて、いつの間にか自分達を見守っていてくれたはずのイギリスの姿が見えなくなっていることに気付き、持っていた卵を取り落とした。
「イギリス!?」
「どうしたんだいアメリカ?」
アメリカが突然あげた大声に、カナダは目を丸くして顔を上げる。
「イギリスがいなくなっちゃったんだぞ!」
「ええっ?」
カナダも慌ててイギリスが立っていた場所を見るが、イギリスの姿はなかった。
「あれ?さっきまでそこに……」
カナダもおろおろと声を上げる。
ついさっきまで、イギリスは二人が卵を探すのを見守ってくれていたはずだった。
そうして、どちらがどんな卵を見つけたのか、後で見てもらおうと思って……。
そう思い起こしてみて、アメリカはハッとしてカナダの顔を見た。
「もしかして、イースターバニーがイギリスを隠しちゃったのかもしれないぞ!」
「えっ!た、大変だ!探さないと!」
イースターバニーは、イースターエッグを運んでくるウサギのことだ。イギリスもそいつに隠されてしまったのでは、と思い、二人は大慌てで庭中探し回った。
「イギリス!イギリス!?」
「イギリスさーん!?」
一生懸命に探すが、イースターエッグは出てきても、イギリスの姿は現れない。
「ど、どうしようアメリカ……」
いつの間にかいっぱいになったイースターエッグを抱えて、怯えた声でカナダが言ったとき、不意に家の入口のほうでなにやら話し声が聞こえた。
「行ってみるんだぞ!」
「う、うん!」
アメリカはカナダの手をぎゅっと握って走り出した。カナダのほうが足が遅いけど、手を離したらイースターバニーに隠されてしまうかもしれない。カナダを守らなければ、と思って、アメリカは絶対に手を離さないようにして声のほうに走った。
家の入口に立っているのが、自分達が探していた人だと気付いて、アメリカもカナダも転がるように走った。
「イギリス!」
「イギリスさ〜ん!」
大声で呼べば、アメリカたちも顔を知っている部下と話していたらしいイギリスは、キョトンとした顔で振り向いた。
「お。探し終わったのか?」
早かったな、と笑うイギリスに、二人はぎゅっとしがみ付いた。
「な、何だ!?どうした?」
二人とも真っ赤な顔でしがみ付いて来たので、イギリスはびっくりして二人を見下ろした。
「だ、だって、いないから……!」
「え?」
「イースターバニーに、攫われたと思ったんだぞ!」
半べそをかきながらアメリカが訴える。カナダはもう物も言えずに泣きながらこくこくと頷くばかりだ。
ちょっと席を外しただけでこんな事になるとは思ってもおらず、イギリスはおろおろしながら二人の頭を撫でた。
「だ、大丈夫だって。イースターバニーは人を隠したりしないから」
「で、でも……」
「もし隠そうとしても、俺が黙って隠されるはずないだろ?」
な。と言われて、やっと二人は安心して力を抜いたが、イギリスにしがみ付くのだけはやめなかった。
……ゲームなんかより、イギリスと一緒のほうがいい。
アメリカとカナダは、同時にそう思っていた。
「さあ、ちゃんと見ててやるから、全部探せよ?」
「ちゃんと見てるんだぞ!」
まだ真っ赤な顔でアメリカが言う。カナダはまだべそをかきながらうんうんと頷いた。
イギリスは嬉しそうに苦笑しながら二人の背中を押す。
「分かってるって。さあ、庭に戻ろう」
言って、部下に目配せして下がらせたイギリスが歩き出したので、二人もピットリとくっついたまま庭に戻った。
結局、イギリスを探す間にあらかた卵は見つけていたので、すぐにエッグハントは終わった。
やっぱりアメリカのほうがカナダよりもたくさんの卵を見つけて、それぞれ見つけた卵を見せっこして、それはそれで楽しかったけれど。
二人にとって、今日はイギリスを見つけるのが何よりも大変なゲームだった。


「かわいいやつらだな」
散々騒いでいたから、お昼の準備をしている間にいつの間にか二人はソファで眠ってしまっていた。
ぎゅっと手を握り合って眠る二人に、イギリスは、他の国の前ではけっして見せないような優しい表情で微笑んだ。
こんな風に、愛しく思える兄弟ができるなんて、思ってもみなかった。
この子達に、主のご加護がありますように。
自然にそう思えて、イギリスは二人の頬に優しく口付けた。
「お昼はパンケーキだぞ」
四旬節の間は食べるのを禁じられているから、久しぶりに焼いてやることになる。
「今日はいい茶葉も持ってこれたからな。楽しみにしてろよ」
気持ちよさそうな寝顔に言って、イギリスは柔らかい、少しずつ色合いや触り心地の違う金髪を撫でて、キッチンへ入っていった。
手を繋いで眠る二人は、春の温かな日差しを浴びながら、力をあわせてイースターバニーからイギリスを守る夢を見ていた。



イースターSS。子メリカナは癒しです。

2009,04,12



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