Boxing

「おーい、カナダ!いるかい?」
大声で呼んで、ドンドンドンとノックを3回。それでも、何事にもスローな兄弟がすぐに出迎えるはずがないのは分かっているので、アメリカは返事すら待たずにさっさとドアを開けて中に入った。森の中にポツンとあるこの家が施錠されているところをアメリカは見たことがない。
「カナダー。……何してるんだい?」
「……あれ、アメリカ?」
ひょっこりとリビングに顔を出したら、カナダはこちらに背を向けて絨毯の上に座り込んでいた。アメリカが声をかけて数秒して、やっと反応する。今回のこれは、彼がのんびりしているせいではなく、単に何かに夢中になっていたせいだ。
「何だいそのプレゼント?クリスマスは終わったぞ」
アメリカがきょとんとして首を傾げる。カナダの目の前には、大小2つのラッピングされた箱が並んでいた。
「まだ開けてないプレゼントがあったのかい?」
アメリカは25日が来るなり、もらったプレゼントを片っ端から開けてしまった。お菓子はもう3割くらい食べてしまったし、おもちゃの類はしまうのが面倒なのでリビングに放置されたままだ。
「ううん。これはクリスマスプレゼントじゃないよ」
カナダは笑いながらプルプルと首を振った。だが、アメリカはこの時期にもらうプレゼントの意味が分からず、ますます首をひねるばかりだ。
じゃあ何?と表情で問いかけてくる兄弟がリビングのソファに腰掛けると、カナダはまず手前にある大きい方の箱のリボンを解きながら、これはね、と口を開いた。
「今日はボクシング・デーだから。フランスさんとイギリスさんからもらったんだ」
「ボクシング・デー?……ああ、そう言えば、君んちにはそう言うのがあったな」
クリスマスの翌日、あるいは、その日が週末ならば明けた月曜日は、ボクシング・デーと言われる祝日だった。
元々は使用人に主人からプレゼントを渡す日で、プレゼントの『箱』を開ける日なので『Boxing』Dayと名付けられた。
それ故電車やバスが間引き運転されていたのだが、アメリカは単にカナダの家だから来るのが遅いのだと思って全く気付いていなかった。
「で、それがフランスからかい?」
今でも弟分にプレゼントを贈ったりしているんだな、と感心半分呆れ半分でアメリカが聞くと、カナダはこっくりと頷いた。
「うん。もう1つがイギリスさんから」
フランスからのプレゼントは、ラッピングの色や柄こそ落ち着いた物だったが、リボンの結び方が凄く凝っていた。アメリカだったら即行ハサミを持って来るところだが、カナダはちまちまと丁寧にリボンを解いている。
きれいに解いたリボンはものすごい長さだった。シンプルに結べば、きっとカナダの家にいるシロクマの体でもラッピングできるだろう。
「リボンがそれで、中身がスッカラカンだったらかっこわるいな」
「もう、アメリカは。そんな事ないよ」
ビリビリと包み紙を破きながらカナダが唇を尖らせる。アメリカも憎まれ口を叩きながら、箱の中身に興味津々だ。自分がもらった物ではないにしろ、プレゼントという物は開ける瞬間が一番わくわくする。
「あ!」
箱を開けたカナダの表情が輝く。どれどれ、とアメリカも箱の中をのぞき込んだ。
中にはラベルも美しいワインが赤白ロゼの一本ずつと有名なブランドのチーズの箱、それに肌触りの良さそうなマフラーが入っていた。多分カシミアだろうマフラーは、カナダの髪と同じハチミツ色だ。
「へえ。気持ちよさそうだな!」
「うん。去年は手袋をもらったんだ」
アメリカが素直にほめると、カナダはたくさんの嬉しいプレゼントにホクホクしながら頷いた。カナダが持ち上げたのを少し触らせてもらったが、ハチミツ色のマフラーはしっとりと柔らかくて暖かそうだった。
「じゃあ、イギリスからのプレゼントも開けてみなよ!」
にこにこしている兄弟にアメリカも嬉しくなりながら促す。カナダはそうだね、と、もらったマフラーを大事に膝に乗せて、もう1つの箱を引き寄せた。
こちらは、フランスからの物に比べたらずいぶんと小さな箱だった。ちょうど、アメリカが両手の親指と人差し指を組み合わせて作った長方形くらい。
「君、毎年クリスマスプレゼントをもらってるのかい?」
「うん。イギリスさんは英連邦のみんなにあげてるみたいだよ」
昔は、アメリカと一緒にクリスマスの朝になったら靴下の中を覗きに行くのが習慣だったが、今は公的に『英連邦の傘下』として、今日受け取る形式になっているらしい。
こっちはするすると簡単にリボンも解けて、すぐにエンボス地の包み紙だけになった。
「実はね、イギリスさんからのプレゼントは、英連邦の中ではこっそり『ロシアンルーレット式』って言われてるんだ」
ちょい、と箱を持ち上げて、カナダは、イギリス本人が聞いているわけでもないのに声を潜めて行って苦笑した。
「へ?何だいそれ?当たり外れでもあるのかい?」
あのイギリスが、はずれ籤入りのプレゼントなど渡すのだろうか、と思いながらアメリカが問うと、カナダは違うんだ、と首を振った。
「イギリスさん本人は、そんなつもりはないと思うよ。ただ、たいていは、本人が喜びそうなちょっとした小物とかなんだけど、何個か………」
カナダが困ったように笑って言いながら、包み紙をちょこっと破いた。
その、瞬間。
ブワっとそこからわき出た、箱の中で小火でも起きてるんじゃないかと思うような臭いに、カナダの手が止まった。
「……………」
いやな感じの沈黙の中、側にいたシロクマが、無言のうちにダッシュで部屋を出ていった。
「………イギリスの手作りが混ざってるんだな?」
「…………うん」
アメリカが、ちょっと気の毒そうな顔で言うと、カナダは半笑いになりながらこっくりと頷いた。
立ちこめる焦げ臭い臭いに、アメリカは盛大にため息をつく。
「……今年はカナダが外れかぁ」
「え?い、いや!これが当たりかもしれない、よ!?」
カナダがあわてて反論するが、残念ながら声が裏返っていて説得力がない。
じゃあ、これを今すぐ平らげなよ、と言い返すほど、アメリカも性格が悪いわけではなかった。
「……来年から、食品は送らないようにって、イギリスに言っておこうか?」
精一杯の優しさでアメリカが言えば、カナダは一瞬揺れたような表情を浮かべたが、結局首を横に振った。
「……ううん。イギリスさん傷付いちゃうから」
「いいのかい?」
「うん。まあ、数年に一度のことだし」
歯切れ悪くも頷いた兄弟に、ふむ、と納得して、アメリカはそれ以上追求することはなかった。
結局のところ、イギリスの笑顔を守りたいと思う気持ちは、アメリカも一緒だったから。
「それ、半分手伝うぞ」
「……ありがとう」
取りあえず、愛すべき兄弟に出したアメリカの助け船は、はにかみながら受け止められたのだった。


今年は26日が土曜日だったから、今日がボクシング・デーだとどっかに書いてあった気がしたんですが、もしかしたら間違いかも?まいっか。
イギはみんなに愛されてるといいと思います。でも数年後に『当たり』を引いたセーシェル辺りに猛抗議されてしょんぼりしたりしてもいい。

2009,12,28



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