ベリーベリー

7月になったばかりのとても気持ちいい陽気の中、アメリカはウキウキしながらカナダの家のチャイムを鳴らしました。
片手にはカナダと遊ぼうと思って持ってきた新作ゲームが入ったバッグ。もう片方の手には、もうすぐおまけに付けてもらったドライアイスが全部溶けてしまいそうになっているバケツサイズのアイスの袋を持っていました。
袋の中のアイスは、今日発売されたばかりの期間限定フレーバーです。初夏に採れるベリーと、クリームをたっぷりと使った濃厚なアイスクリームです。これを食べながらゲームをしたら、とても素晴らしい休日になるでしょう。
ホクホクしながらアメリカは出迎えがまだない玄関のドアを勝手に開けました。カナダが出てくるのを待っていたらとても時間がかかりますし、何よりアイスが溶けてしまいます。カナダは今更、アメリカが勝手に入っても怒ったりはしません。機密書類などは覗かない等のエチケットは兄弟と言えどちゃんと守るからです。
「おーい、カナダ!いるかい?」
アメリカは呼びかけながらリビングに続くドアを開けました。ちょうどカナダが玄関に迎えに出ようとして中からドアを開けようとしていたところだったので、危うくカナダの鼻先をはねてしまうところでしたが、アメリカは気づきません。
「やあ、カナダ!」
「あ、やあ、アメリカ」
カナダもアメリカにドアではねられそうになったことには気づかず、ドアを開けたのがアメリカだと分かるとにっこり笑いました。
「来てくれたんだね。嬉しいよ」
「え?」
アメリカはきょとんとしました。今日は別に約束をしていたわけではなく、待っていたんだという顔をされる意味が分かりません。
内心首を傾げるアメリカに、カナダは心から嬉しそうに笑います。
「招待状を送るのを忘れてて、気づいたら当日だったんだ。覚えててくれて嬉しいよ」
はにかむカナダに、アメリカはカレンダーを見て初めて思い出し、心の中でマズい、と叫びました。
そうでした。今日は、目の前にいる兄弟の、1年にたった1度しかない誕生日なのでした。
自分の誕生日までのカウントダウンで頭がいっぱいだったアメリカは、この瞬間までそれを忘れていました。
それでも、嬉しそうなカナダの笑顔に、忘れてたなんて言えるはずもありません。
「も、もちろんだよ兄弟!……これ、誕生日プレゼントだぞ!」
アメリカが思わず差し出したのは、ゲームソフトの方ではなく、アイスの袋の方でした。相手の目の前にそれを突き出してから気づいて、アメリカはこっそり、更に慌てふためきます。ゲームソフトならともかく、誕生日のプレゼントがたったアイス1個なんて。カナダは悲しむでしょう。
間違えた、と取り繕おうか、それとも今からでも正直にプレゼントを用意できていない事を打ち明けようかとグルグル考えるアメリカの目の前で、カナダはじっとアメリカが持っている袋を見て……表情を輝かせました。
「わあ、アイスだ!ありがとうアメリカ!」
「え」
弾んだカナダの声に目をまん丸くするアメリカの手から、カナダはウキウキとアイスの袋を受け取ります。
「しかもこれ、限定フレーバーだろ?買ってきてくれたんだな。嬉しいよ、ありがとう」
「……ああ、うん……」
喜んでもらえたのはよかったと思いますが、なんだか釈然としません。たったアイス1個でこんなに喜んでもらえるとは思いもしませんでした。ひどいよ、と泣かれるかと思っていました。
「フランスさんやイギリスさんからはプレゼントももらえたけど、他の人はみんな僕の誕生日も忘れてると思ってたんだ。君が来てくれて、しかもアイスまでくれるなんて嬉しいよ」
心から幸せそうに言うカナダに、アメリカの胸が痛みました。
「今度、もっとすごいプレゼント持ってくるからな、カナダ!」
「へ?う……うん」
勢い込んで言ったアメリカの言葉に、カナダはきょとんとして首を傾げています。だってプレゼントならアイスをもうもらったのに、と戸惑っているようです。
それでも、こんなに小さな事を大事な幸せのように喜ぶカナダに、アメリカは1週間以内にグレートなプレゼントを持ってこようと心の中で誓いました。
「じゃあ、このアイス冷やしてくるよ」
せっかくのプレゼントが溶けたら大変、と、カナダはいそいそと冷蔵庫に向かいました。アメリカも何か飲み物をもらおうとついていきます。
ああ、それにしても、限定フレーバーのアイスを食べ損ねたのはちょっと残念だな、と、アメリカは思います。さっき焦った事はすでにきっぱり忘れています。この場に某東洋の島国がいたら、喉元すぎれば、という言葉を呟いたことでしょう。
発売当日と言う事もあって、アメリカが精算をすませたときにはすでにこのフレーバーは完売していました。期間中に食べられるかどうか、人気次第では分かりません。
かといって今更返してというわけにもいかず、こっそり落ち込んでいる間に、カナダはホクホクした顔で冷凍庫のドアを開けました。
「……あ。」
カナダが声を上げます。アメリカも、カナダ越しにそれを見ました。
カナダの家の冷凍庫は、すでにアイスや冷凍食品、それに解凍してクマ四郎さんにあげるための冷凍サーモンなんかがぎっしり詰まっていました。とてもバケツサイズのアイスが入る隙間なんてありません。
「うーん………」
ドアを開けたまま、ちょっとだけカナダは考えました。そして。
パタン。
冷凍庫のドアを閉めてにっこり笑いました。
「入らないから食べちゃおうか?」
「それはいいアイディアだね兄弟!」
アメリカも表情を輝かせて頷きました。

そうして、カナダの1年に1回の大事な大事な日に、兄弟は仲良く二人でアイスを食べてゲームをしたのでした。




カナちゃんは小さいことでもちゃんと喜んでくれそうなイメージです。

2010,07,01



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