GAME

世界会議の後の、ホテルのバー。
「くっそぉぉぉぉ!あの野郎、いっつも俺に突っかかってきやがって!」
ある意味いつも通り、カウンターにはイギリスの涙交じりの怨嗟の声が響いていた。
それを聞かされているのは、いつも通りのフランス……では、今日はなく。
「うん、あれはちょっときつかったよね〜」
ほんわかと、しかし確かな毒を混ぜて返す台詞を吐く男の首には、トレードマークのマフラー。
イギリスの横、ロシアはのんびりとウォッカを氷すら入れずに涼しい顔であおっていた。
何故かたまたまバーに一人きりで入って来たロシアは、すでに出来上がっていたイギリスを見つけるなりちゃっかりとその横に座し、イギリスの愚痴をこぼれるままに頷いて聞いているのだった。
「あいつ、我がままだし」
「うん」
「できることとできないことの区別もつかねえし、」
「そうだね」
「何かにつけて俺にばっかり冷たい態度取りやがるしっ!」
「今日も酷かったよね〜」
「しかも、『君の顔見てるとイライラするよ!』だと!……こ、こっちの台詞だってんだ……!」
「あれはちょっと言いすぎだよね」
するすると出てくるアメリカへの不満を、ロシアはあっさりと肯定する。フランスならばここで少しのフォローも入れるのだろうが、ロシアにそんなサービスはないのだった。
イギリスはたまりにたまった愚痴を吐き出して、高ぶった感情のまま涙ぐむ。そんなイギリスに、ロシアはそっとナプキンを差し出した。
「アーサー君、いつもよく耐えてるよね。アルフレッド君に振り回されてもめげないで、頑張ってるよ」
「ロ、イヴァン……」
滅多に他人からかけてもらえない優しい言葉を聞いて、イギリスは先ほどまでとは違う意味で涙ぐんだ。打たれ強い代わりに、優しくされるのにどこまでも弱いイギリスである。いつもならば相手がロシアである時点で警戒するところだが、今はアルコールのせいで危機管理能力が底辺に落ちていた。
「お前、何か優しいな……」
「え〜、そんなことないよ」
ぐすっとすすり上げながら、イギリスは手渡されたナプキンで涙を拭く。その、真っ赤でぐしゃぐしゃな顔に、ロシアはニッコリと微笑みかけた。
……計算してるだけだよ。
そう、内心でロシアが呟くのにも、アルコールに浸されたイギリスは気付かない。途中でロシアに付き合って、ウイスキーからウォッカに変えたのもよくなかったようだ。
「君だけだよ、アーサー君」
「イヴァン……」
普段なら、『何の裏があるんだ!』と喚きたてる場面だったが、今のイギリスはロシアの言葉を額面どおりに受け取って感動するのみだ。
「ねえ、アーサー君……」
酔ってぼうっとしているイギリスは、ロシアがさりげなくスツールを近づけたのにも気付かない。
「君、僕と……」
ロシアが、言いかけながらイギリスの頬へ手を伸ばす。
その、瞬間。
ちょうど、伸ばしたロシアの右手の甲を掠って、1本のダーツが投げられた。
「あ、イヴァンごめんよ!ちょっと手元が狂ったみたいだ!」
そうしてかけられたのは、どこまでも邪気がなさそうな明るい声。
掠った後が1本、白い肌にみみず腫れを作る。そこからじんわりと痛みを覚えるのを感じつつロシアが顔を向ければ、予想通りそこには金髪の青年が立っていた。
「もう。痛いよアルフレッド君。命中精度だけが君の取り柄だと思ってたんだけどな〜」
「悪かったよ。でも、たまたま手が滑っただけだぞ。君みたいに、始終的外れじゃないからな、俺は!」
そう言って笑うのは、イギリスの涙の元凶。
そして、イギリスを心から笑わせることができる、唯一の存在。
あくまで邪気がなさそうに、ロシアはニッコリと笑って言う。
「アーサー君が君のせいで泣いてたから、話をずっと聞いてあげてたんだよ」
「ああ、それは悪かったな。その人のそれ、半分はのろ気みたいなもんだからさ。聞き流してくれてよかったんだぞ!」
アメリカはいつもの裏がない笑顔で答える。愛されることに微塵の疑問も不安も抱かない、自信ある表情で。
「そうなんだ〜。すっごく悲しそうにしてるから、つい本気になって聞いちゃったよ」
「いつものことだから、気にしなくてもいいんだぞ。あ、お詫びにここの勘定は俺が持つよ」
暗に、これでイギリスに触れるのはお終いにしろと言う、無自覚ながら傲慢な言い草に、ロシアは眉一本動かさなかった。
カウンターに立ったバーテンが、こっそり二人の会話に眉をひそめるが、さすがにここで第二次冷戦が始まりかけていると言うことまでは分からなかった。
怒るでもなく、ロシアはまだ中身が3割ほど残っているボトルをかざして見せる。
「うん。じゃあボトル4本分、君に払ってもらうね」
「ああ。任せてくれ!……さあ、アーサー戻るぞ!」
「……へあ?アメリカ?」
ロシアの手が伸びる前から、半ば意識を飛ばしかけていたイギリスは、突然腕を引かれて目を丸くした。人間名を使うことすら、頭にないようだ。
「お、お前、俺の顔見たらイライラするって……」
目を白黒させながら、ろれつの回らない声で言うイギリスに、アメリカは大仰に肩をすくめて見せる。
「だからって、あんなに大声で喚かれたら、みんなの迷惑になるだろう!」
「うっ……!聞いてたのかよ!」
「バーの外まで響いてたぞ!」
イギリスが正気ならば、イギリスの姿を探したアメリカがホテル中を探し回って走った後で、汗をかいていることに気付いただろう。
だが、それに気付く余裕もなく、イギリスはぐい、と腕を引っ張られて立ち上がらせられた。
「ほら、部屋に戻るぞ!」
「ちょ、待てよ。俺、まだ……」
「充分飲んだはずだ!反論は認めないぞ!」
「おま、いっつもそればっかり……!」
ギャアギャア言いながらも、イギリスは促されるまま出口へと体を向ける。
「じゃあな、イヴァン」
「うん。おやすみ、アーサー君。……ああ、アルフレッド君も」
「ああ。おやすみイヴァン!」
わざと付け足すように声をかけられても、アメリカは朗らかに返してさっさと清算を済ませて出て行った。
残されたロシアは、軽く息をついて、右手の甲に視線を落とす。
そこには正確に、2ミリ幅で1本のみみず腫れができていた。
「もうちょっとだったんだけどな〜」
呟く声は、あまり残念そうなそれではなく、あくまで軽い。
ちょっとしたミスをしたという程度の反応で、ロシアはあくまで笑っている。
「まあ、別に、今じゃないといけないわけじゃないしね」
機会なんて、いくらでもあるし。とりわけ、あの2人ならば波風も多いだろう。
そう呟く声は、段々と勢い付いて来た店内の喧騒にかき消されて、誰の耳にも届かなかった。



何を思ったか、突然頭に浮かんだ米英←露です。米英はできてる設定です。
続くような感じですが続きません。書きたかっただけです。
……かっとなってやった。後k(ry。
本気でぽっと浮かんだだけの、30分一発書きです。
まさしく、やまなし、おちなし、いみなし。
メリカと露様の陰険漫才(片方悪気なし)を書きたかっただけとも言う。
イギ→露様は苗字で呼びそうですが、なんとなくファーストネームで。
最初兄ちゃんで考えてたんですが、私の書く米英時の仏←→英はすこぶる仲が悪いもんで。

2009,05,18



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