5月末日の花嫁

※米英オンリーが開催されたのが5/31だったので思いついたネタです。

金曜日までの雨は昨日にはからりと上がり、ワシントンは快晴だった。
朝は肌寒かったが、今はドレスのオーバードレスが蒸れる程度には気温も上がっていた。
アメリカにプロポーズされた時は、正直に言って冗談だと思っていた。『属国になれ』という意味かと勘ぐったほどだ。
それでも今、こうやってチャペルに入る準備をしている自分が、イギリスはとても不思議だった。
男である自分がドレスを着せられることは物凄く、今でも不満ではあるのだが、それもアメリカの希望だったのだから仕方がないだろう。
そう思いながらも、落ち着きなく肘上までの丈の手袋をいじっていると、ベールの形を整えていたフランスが不意に口を開いた。
「なあ、何で6月まで待てなかったんだよ」
「あ?」
いきなり言われた言葉の意味がわからず聞き返しながら振り返ろうとすると、動くなと怒られた。
「ほら、ジューンブライドっていうだろ?6月まで待てばよかったのに」
6月の花嫁。結婚の女神であるジューンにちなんで、6月に結婚した女性は幸せになれるという。
「し、仕方ねえだろ。6月はお互い忙しいし、世界会議も入ってるし……」
イギリスは唇を尖らせながら言った後、不意に口をつぐんだ。手袋の指先を意味もなく引っ張ってみたりしながら、それに、と小さな声で呟く。
「……そ、それに……。……あいつが、『早くしたい!』て言うから」
イギリスの言葉に、フランスはぴたりと手を止めた。
数秒『あ〜あ』という呆れ顔で天井を見て、フランスは結局大きくため息をついただけで、突っ込んだりはしなかった。
「あんまり甘やかすなよ?」
とりあえず、これだけは言っておこうと思った言葉だけをフランスはため息混じりに囁きつつベールを着けるボンネットをきれいに整えて作業を終えた。
「……分かってる」
「分かってねえじゃん」
「…………」
イギリスの言葉に即座に突っ込むと、彼は赤くなりつつ俯いてしまった。自分がアメリカに甘いと言う自覚はあるらしい。
そうしていると、突如、ドアをバン!と開いてアメリカが中に入ってきた。
「まだ支度はすまないの……」
大声で言いかけた言葉の語尾が途切れる。
アメリカは、じっとイギリスを見つめて固まってしまった。
「な、何だよ。……何か、言えよ。どうせ変なんだろ?」
イギリスがふてくされたように言うが、アメリカは全く反応しない。
なおもじっと見つめた後、アメリカはやおらガバッと抱きついた。
「なっ!?」
「幸せに!幸せにするんだぞ!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、アメリカが叫ぶ。どうやらお気に召したらしい。
「……わ、分かったから、はなせっ!」
イギリスは真っ赤になりながら、ドレスが皺になるだろ!と怒鳴った。
そんなバカップルを見やって、フランスは呆れたような、微笑ましげなものを見るような微妙な表情を浮かべ、きびすを返した。
「あ〜……。じゃあ、お兄さん式場に入っとくから」
そう言って立ち去るが、2人には全く聞こえていなかった。

「じゃあ、チャペルで待ってるぞ、イギリス!」
「ああ。……チャペルで騒いだりするんじゃねえぞ!いいな!」
「分かってるさ!」
言い置いて、アメリカは先に入場するべく控え室を出て行った。
嵐のような恋人……いや、今日からは夫か……の行動に緊張も吹き飛ばされ、イギリスはため息をつく。
外は、門出を祝福するような晴天。
もうすぐ、チャペルの鐘がなる。




米英オンリーにて、お買い上げいただいた方にペーパー代わりに付けさせていただいたSSです。
日程が5/31で、ジューンブライドまであと1日!と思って30分くらいで書き上げました。

2009,06,01



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