夢     


ただの任務。いつもの任務。
ただ、今日の標的が「あの子」だと言うだけ。
何の事はない。自分には一瞬の「作業」。
多分寒いせいだ。この手が震えて手甲がつけ辛いのは。
たぶん夏のせいだ。汗をかいた手のひらで手袋がつっかえるのは。
多分、息が切れるのは走り続けたせいなのだ。
そう、何の事はない、ただの任務。
里を守るために、今一度だけ一振りの刃となること。
ほら、標的があそこにいた。
簡単なこと。力の差は歴然。しかも相手はこちらに気づかない。
今までの誰よりも容易い標的。他のどんな敵より、楽に屠る事ができる。
……………ほら、もう片が付いた。
ことりと転がる首の金色の髪が鉄臭い赤で汚れ、見開かれた大きな青い瞳が、焦点の合わないまま自分 を見上げる。


一瞬の落下感と、心臓が跳ねる感触。
寝起きだと言うのにやけにはっきりした五感が人肌に温もった布団の感触を伝える。
今まで目の前にあった光景が夢の中の物だった事に気づくのにそう時間はかからない。
……だってほら、手が汚れてない。
確認し、激しい鼓動と呼吸を落ち着けようと大きく息を吸い、吐き出す。
無性に喉の渇きを感じ、完全に醒めてしまった体を起こした。
枕元にある二枚の写真の存在を一瞬だけ確かめて、冷蔵庫の水を注ぎに行く。
冷蔵庫にボトルを戻す前に一口飲んで、残りは戻ったベッドに腰掛けて飲む。
グラスの中身がほとんど空になってもなお小刻みに震えている己の手を見て、苦笑した。
「悪夢に飛び起きるなんていつ以来だろうな……」
呟いて最後の一口を口に運びかけ、自分の言葉に小さな違和感を感じで手を止める。
違和感の理由を探して手の中のグラスを弄び、枕元の写真に目をやって、気づく。
自分が「悪夢」と言ったからだ、今の夢を。
それは、つまり。
自分の中であれは、「あって欲しくない事」なのだ。「いつかあるかも知れない予測できる事」ではなく。
自分は、あの子を手にかけることが恐ろしいのだろうか。
確かに、自分の大切な部下ではある。だが、部下だった者を殺すことになったことなど、今まで何度も あったのだ。いまさら怖い事などあるわけがない。
それとも、自分は今までも怖かったのだろうか。
それとも。
あの頃の自分と、今、あの子達にあってからの自分と、心の在り様が変わってしまったのだろうか。
今、かつての、また、今の、部下を殺せと言われたら、自分はどのように感じるだろう。
その状況を頭に浮かべようとして、真っ先に頭に浮かんだのは、夢に出てきた青い瞳の子供だった。
浮かぶ顔は、自分が褒めた時に見せた満面の笑顔や、思い通りに行かなかった時の心底悔しそうな顔。
ぞっと、胸が、背中が、急速に冷えていくのを感じた。
体が拒否しているのを感じて、自嘲する。
それでも。
自分の体がどれだけ拒否しようと。
たとえ、拒否権が自分にあったとしても。
自分は、もしあの子を殺す任務があった時は、絶対にその任務を受けるだろう。
他の誰よりも先に、あの子の命を絶つだろう。
他の誰にも、指一本触れさせない。
…………殺害は、他者への最大の干渉だから。
そう考えた自分が、いつの間にか手の中のグラスを手が白くなるほど握っていたのに気づき、そっと苦笑した。
無いかも知れない「もしも」のことをつらつら考えてしまうなど馬鹿らしい。
明日の任務は早いのだから、体力の温存のために早く寝なければ。
まったく、子供の元気さと言うものは底抜けなのだから困る。
そう思って、手の中で温くなった水を笑んだ口であおった。


舌先に感じた味は、少し、どこか鉄臭くて、違うものを連想させた。


2003,11,01


だいぶ前に書いたカカナルです。
書いたは良いけど、NARUTOで他に書いてる物とは全然違うダークさに、日の目を見ずにおりました。
よって、原作内でもまだまだひよっこ時代のナルトのお話と思ってください。
ていうか、いきなりカカナル上げて自分でもびっくり(するな)。


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