信頼

「ナルト、ほら」
「え?」
任務中いきなり目の前に突き出されたカカシの拳に、ナルトは目を丸くした。
「何? 何? 何かくれんの?」
何か小さな物を握っているらしいカカシの手の下に両手を差し出して、ナルトは嬉しそうにカカシを見上げた。
その、一瞬。
カカシの目が嬉しそうに細められたのを、偶然サスケは見てしまった。
ナルトのあの動作の何にカカシが喜んだのかわからず、思わず凝視してしまったサスケにカカシは気付いたが、あえて視線を向けない。
「さっきから腹の虫がうるさいんだよ。兵糧丸やるから食べなさい」
「あ、うん。サンキュー」
早朝に集まって、昼近くになっても何も口にしていないのだから全員腹が減ってはいるのだが、ナルトの腹の虫はひどくにぎやかだった。
今日の任務は依頼主が落とした母の形見の指輪探しだ。
腹の虫がなっても問題がない任務で良かった。これで、音に敏感な動物を捕まえる任務だったら、今ごろサクラあたりから一撃食らっていただろう。
両手に落とされた兵糧丸をナルトが食べ始めたのを見て、サスケは任務に戻った。


結局指輪はサクラが見つけて、昼過ぎに任務は完了した。
サクラとナルトがにぎやかに歩いていく後ろを、サスケがだるそうに歩く。速さが違うから、少し距離が開く。
その横に、カカシがすっと並んできた。
ちら、と視線を向けたサスケに、カカシは笑って、彼に拳を握ってみせる。
何事かと目で問うサスケに、カカシは自分の手に視線を落とした。
「中身が見えないように小さい物を握って相手に差し出したとき、もし相手が両手を差し出したら」
言葉を切って、サスケの顔を見てカカシは笑みを深める。
「相手は自分のことを信頼してるんだよ。まっ、簡単な心理テストだけどな」
それはつまり。
カカシは、ナルトに信頼されていると感じて嬉しくなったという事か。
半ば納得し、半ば呆れて、サスケはカカシの顔を見上げた。
その視線を受け止めて笑い、カカシは大分先に行って待っている二人に追いつくために足を速めた。
残されたサスケは、思わず自分の手を見つめていた。


今日も今日とてDランクの任務。今日は畑仕事の手伝いだ。
全員泥だらけで、依頼以上の仕事を終えて、農家の人にはとても感謝された。
お礼にどうぞと貰った芋をカカシが抱えて、落ち葉を集めて焼きいもにしようと約束した。
その、帰り道。
忍者とはいえ子供が頑張ってくれたお礼にと、サスケは農家の人に四人分の小さなお菓子を持たされていた。
サクラはさっきから自分にくっついてきているからさっさと渡してしまった。カカシは貰ったことを言った時に渡した。
でもナルトは、貰った芋に興味を引かれてしまっていて、渡すタイミングが掴めなかった。
ポケットの中の、自分の分とナルトの分のお菓子が気にかかっているうち、たき火をすると決めた広場に着いてしまった。
たき火のための落ち葉と小枝拾いに取り掛かる。
カカシだけがのんびりと、「芋抱えてきて疲れた」とか言って読書に没頭し、子供三人で枯葉を集める。
ナルトは上着を脱いだ上に枯葉を積んで運んでいっている。任務より熱心にやっているのではないだろうか。
一生懸命枯葉を集めているナルトに、脇に拾った小枝を抱えたサスケが歩み寄る。
後々渡しそびれたら困るので、ポケットの中のお菓子を手に握る。
そのお菓子は小さくて、握った手の中にすっぽり収まった。
ちらり、と。
カカシが言った心理テストが、頭を過ぎった。
「ナルト」
「ん? 何だよサスケ」
服に枯葉をくっつけて、枯葉の絨毯の上に座り込んだナルトが顔を上げる。
その目の前に、サスケはお菓子を握った手を突き出した。
「これ」
「何それ。何かくれんの?」
そう、言いながら。
ナルトは、両手を、差し出した。
…………それは、つまり。
カカシの言葉が頭を過ぎり、サスケの頬に朱が走った。
何だか。
そう、何だか、とても、嬉しくて。
サスケは、ナルトの両手を見つめて動きを止めてしまった。
「何だよサスケ。何くれんの?」
きょとんとしてサスケを見上げるナルトの声にはっと我に返って、サスケは拳を開いて差し出された両手の上にお菓子を落とした。
「お菓子? 何でおまえが……。サスケ?」
どうしてこれを自分に、と問おうとサスケの方にナルトが視線を戻した時には、サスケの姿は大分先にあった。
「………サスケ?」
小枝拾いに戻ってしまったサスケの姿と両手の上のお菓子を見比べて、ナルトは首を傾げる。
いつもの仏頂面と違ってサスケの顔が赤く染まり、口が笑みの形になっていることを、背を向けられたナルトは気付かなかった。
気付かないまま、ナルトはサスケから貰ったお菓子を見て首を傾げた後、まいっか、と言って微笑んだ。

2003,11,05



これもまた、大分前に上げたサスナルです。
心理テストネタ大好きなんで、このジャンルでもやっぱりやってたり(苦笑)。
実は、ナルトが片手しか出してくれなくて凹む、というギャグネタも最初考えてましたが止めときました(笑)。



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