愛のネグリジェ大作戦☆

そこは、買い物には便利だけど別に都会というわけではない、ありふれた町にある、快適ではあるけれどそこまで広いわけではない、まあ中くらいのランクのマンション、「コーポウエスト」。
一階に二部屋ずつ、全十一階建ての建物の七階には、二組の御夫婦が住んでいました。
とっても仲睦まじいお二組は、ご近所でも評判のラバップルでした。
今日は、702号室のある日の夜の風景を覗いてみましょう。

今日は悟浄さんのお仕事がお休みで、八戒奥さんと一緒にプチデートを楽しんできました。
プチデートといっても、公園でお散歩したり、お買い物をしたりしてきただけだったのですが、八戒奥さんは悟浄さんがいろいろなところについて来てくれたので、とてもご機嫌でお夕飯を作っています。
今日の夕飯はいつもよりちょっとだけ豪華です。腕によりをかけて、いつも以上の愛を込めて作っています。
おいしい匂いが漂ってきて、夕飯がとても待ち遠しいリビングで、悟浄さんは満面の笑顔で今日買ってきたものを袋から出しています。
八戒奥さんが靴下やハンカチを見に行っている間にこっそり買ったそれは、淡いピンクのネグリジェでした。
可愛くて肌触りもいいそれはもちろん、今夜八戒さんに着てもらうためのものでした。
あくまで薄い、上品な感じの色のネグリジェは、厳選に厳選を重ねた、八戒奥さんに似合うだろう物で、悟浄さんは最初、これを着て自分にはにかんだように笑ってくれる八戒奥さんを想像してニヤニヤしていました。
薄手のネグリジェに、湯上りの八戒さんの肌は凄く映えるはずなのです。
しかも、朝起きて台所に行くと、このネグリジェにエプロンをつけて台所に立っている八戒奥さんが拝めるのです。
それを見るためなら、悟浄さんは前日どれだけ遅くても早起きできる自信があります。
「似合うだろうなあ……」
悟浄さんは時折、どうしても緩んでしまう口元でそう呟いています。
とてもではありませんが、他人に見せたらまず警察を呼びたくなるようなしまりのない顔です。
ひとしきり、いろんな妄想……いえ、想像を楽しんでいた悟浄さんに、何も知らない八戒奥さんの声がかかります。
「悟浄、ご飯できましたよ」
「はーい」
悟浄さんは良い子のお返事で、ネグリジェを片付けて台所に急いでいきました。

さて、ご飯の後です。
八戒奥さんは台所で洗物と、明日の朝ご飯の準備をしています。
リビングでは、悟浄さんがさっきとは打って変わって困った顔をしていました。
目の前にあるのは、先程のネグリジェと、八戒さんがいつも着ているパジャマです。
オリーブ色と白のしましまパジャマは、悟浄さんのワインレッドのしましまパジャマとお揃いの物です。
大きさは悟浄さんのものと全く一緒なのですが、筋肉がばっちりついた悟浄さんにもちょっと大きいパジャマは、細身の八戒奥さんには結構大きかったりします。
どうしても体が泳いでしまうので、時折ずれてしまった襟元を直すしぐさや、下の方のボタンを留めるときにパジャマが捲れて見えるお臍なんかがとても可愛いのです。
今日買ってきたネグリジェを着てもらうということは、八戒奥さんがこのパジャマを着て寝て、根乱れてずれた襟のおかげで肩の近くまで肌が見えるという、ちょっとチラリズム(?)な楽しみもなくなるということなのです。
ネグリジェ姿は見たいけれど、自分とペアルックのパジャマ姿はとてもおしく思える悟浄さんでした。
八戒さんが洗物と朝ご飯の用意を終えて悟浄さんと一緒に飲むお茶を用意しだしたとき、不意に悟浄さんはひらめきました。
そうです。別に一つのパジャマだけを着なければいけないわけではないのです。
ようはこの二つの可愛い寝間着を交互に着て貰えばいいのです!
それを悟った悟浄さんは、俄然うきうきしだしました。
湯上りでピンクになった肌が覗くネグリジェ姿もパジャマ姿も、両方が見られるのです。
二種類の八戒さんの可愛さを想像して、悟浄さんは世界一の幸せ者である自分を噛締めていました。
でもその表情は、八戒奥さんには見られなくて正解だったようです。

さて、いよいよ八戒奥さんがリビングに戻ってきます。
あとは八戒奥さんにこのネグリジェを手渡すだけ!
「八戒!」
両手でネグリジェを掲げて、今まさにお願いしようとした悟浄さんを見て、八戒奥さんは一度だけ、悟浄さんとネグリジェを交互に見て、にっこり笑いました。
そして言いました。
「嫌ですよ?」
ついでに「明日返品してきます」といった八戒奥さんに、悟浄さんはネグリジェを手にしたまま、がっくりとうな垂れたのでした。

それでも、お揃いのパジャマ姿を眺められるということであっさり復活したらしいです。

へたれ悟浄祭様へ


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