ラブラブ公害

折角町に辿り着けたのに、お祭りがあるとかで、一部屋しか空いてなかった。
まあ、大部屋だったし、二段式とはいえベッドもちゃんとあったから、悪くはなかった。
が。
「おい、自分のベッドで寝ろ猿」
しかし。
「だぁって、寒いんだもん」
目の前で、いちゃいちゃいちゃいちゃ(×∞)してる二人を見ながら、寝るまでの時間を過ごさなきゃならないなんて、ちょっとあんまりかも、と思ってしまう。
夜になったから冷え込んで、冷たい布団より人肌の膝枕の方がいいのは分かるけど。
でも。
突っ込みを入れたい気持ちでいっぱいで、複雑そうな顔をしている悟浄と八戒の前で、三蔵は平然と、ベッドの端に腰掛けて新聞を読んでいる。
その膝にじゃれ付いて上機嫌な悟空と、口調だけは嫌そうだけど本心から嫌がっているわけではなさそうな三蔵を見て、八戒はぬるい笑顔を浮かべるしかない。
「……はいはいごちそうさま。俺風呂行ってくるわ」
悟浄が早々に逃げ出した。
……八戒を置き去りに。
覚えててくださいねとか思っている八戒の目の前で、やっぱり三蔵の膝の上で語空が、
「ごちそうさまって、悟浄なんか食ったの?」
と三蔵を見上げながら言う。
「知るか」
体が冷えると思ったのか、悟空に掛け布団を掛けてやりながら三蔵が答える。
ここまでいちゃいちゃされると、公害としか言いようがない。
思わず浮かぶ笑みの隙間から、砂がざらざらと溢れ出てしまいそうだ。
分かってないからたちが悪いんだよな、とか、誰か助けて、とか思いながら、八戒は視線を彼らから外せない。
というか、部屋の中だからどうやっても視界の端に彼らが入ってくる。
僕もお風呂行こうかな、と思っていると、悟空がうとうとしだした。
「上に上って寝ろ、猿」
「……猿じゃ、ないもぉん」
答えが一拍遅れる。
本格的に寝る姿勢にないっているらしい悟空に、三蔵はハリセンも食らわせなければ無理やり起こそうとしてもいない。
「寝るな」
「…………おやすみ」
三蔵が呼ぶのに構わず、悟空はそのまま三蔵の膝の上で目をつぶってしまった。
「………………」
「眠っちゃいましたね」
苦笑しながら八戒が言う。
普通ならここで一発(ハリセンか拳骨が)入るはずである。
三蔵は相当短気だし。
そう予測していた八戒は、信じられない言葉を聞いた。
「……仕方ない。俺が上で寝るか」
「…………………え??」
何でそこまで甘やかしてるの?何か悪いものでも食べた?と突っ込みたくなるような、あっさりとした口調。
「何だ」
「いえ……。なんか、意外で」
分かっていないらしい三蔵が眉を寄せるのと、悟浄がやかましく部屋に戻ってくるのはほぼ同時だった。
「今風呂すいてたぜ。入ってくれば?……と、何猿寝ちまったの?」
悟空の顔を覗き込む悟浄の髪から、水滴が悟空の頬に落ちた。
不快げにうめいて、ぎゅっと三蔵の着物の裾を握った悟空と、何しやがる、と言う顔で悟浄を睨む三蔵。
何かもう、好きにやっちゃってください、と言う感じだ。
「……僕お風呂行って来ますね」
居たたまれなくて、着替えを掴んだ八戒が部屋を出て行こうとする。
その拍子に、バランスを崩して八戒がよろめいた。
「……っと。大丈夫かよ」
とっさに手を出して支えた悟浄が気遣うのに、八戒が苦笑を返す。
「あはは、敷物につまづいちゃったみたいです」
「具合悪いんじゃねえのか?」
「大丈夫ですよ」
にこにこ笑っている八戒と、気遣わしげな表情の悟浄を見て、三蔵が嫌そうな顔をした。
「……バカップル」
ぼそりと呟いたその言葉に、二人の動きが止まる。
二人の中で、何かがぶちきれる。
そして、二人同時に叫んだ。
「あなたにだけは言われたくないです!!」
「おめえにだけは言われたくねえ!!」
…………無自覚にいちゃつくのほど、たちの悪い物はない。
それが身にしみって分かった夜だった。

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