心理テスト
宿に入ったときにはもうかなり夜遅くなっていた。 部屋は二人部屋しか残っていなかった上、浴場を閉めなければならない時間ぎりぎりらしく、4人一緒に風呂に入ることになった。 いつもの騒がしさなどかけらもなく、時間に追われてさっさと体を洗い、体が温まったらすぐに湯船から出るという慌しさだったが、まともに風呂に入れること自体ありがたいことなので、誰も文句を言ったりはしない。 「お先に♪」 「悟空、ちゃんと温まったんですか?」 「うん。もうこれ以上入ってたら茹っちまいそう」 ……といった具合に元から長く湯船に浸かりたがらない悟空がさっさと上がり、長風呂が好きな八戒と三蔵も、宿の迷惑にならない程度に早めに切り上げて風呂から上がった。 最後の二人……言い換えれば保護者二人組が風呂場から出て来ると、先に上がった二人が休憩場でジュースとビールをそれぞれ手に持っているのを見つけた。 「どうしたんですか、それ」 「宿の人が、急かしたお詫びにって持って来てくれたんだよ。お前らビールでいいな?」 悟浄が投げてよこす缶ビールをそれぞれ受け取って、窓際に移動する。 風が冷たくて気持ちがいい。 窓際に椅子を持ってきて座り、ビールに口をつけて寛ぐ三蔵の顔に、目の前に立っている悟空の髪から水滴が飛んできた。 「悟空、髪ちゃんと拭いてねえだろ。ほらこっち来い」 腕を引っ張り引き寄せ、テーブルの上にビールの缶を置いて悟空の肩にかけられたまま使われていないタオルでガシガシと髪を拭く。 これが悟空だからこう言う扱いを受けのであって、例えばもし悟浄だったら、滴がかかった途端文句を言われるだろうことは必至なので、何だかな、と言う顔をして八戒と悟浄は二人からなんとなく視線をそらす。 視線をそらした先に壁にかかった船の絵を見つけ、悟浄はふと思いついたことを口に出した。 「……心理テスト『目の前を船が走っています。その船が汽笛を鳴らしました。どれくらいの長さと高さでしょう?』」 「え?」 「あ?」 三蔵と悟空が怪訝そうな声を上げる。 「まあ、余興だと思って。汽笛の長さと、高さ」 「あ、僕それ知ってます」 八戒がにこやかに言う。 じゃあばらすな、と悟浄が言う前で、眉間にいつもの皺を刻んでいる三蔵と、考え込んでこちらも眉間に皺の悟空だ。 「ばかばかしい。何で答えなきゃ……」 「ポーって短く高くかな。三蔵は?」 言いかけた文句を悟空にかき消され、自分に水を向けられた。 う、と言葉を詰まらせ、見つめる悟空の期待に満ちた瞳に内心たじろぐ。 「……………」 「なあって。三蔵答えねえと答え聞けねえじゃん」 早く、と急かされ、どうしようかと少し考えて。 「……………低く、聞いてる方が息苦しくなりそうなほど長く」 結局瞳の輝きに負けて、答えた。 「……へえ?」 途端ニヤニヤと笑い出した悟浄に不快感と嫌な予感を覚え、ビールの缶を持って席を立った。 「あれ、三蔵。答えは?」 「知らん。部屋に戻る」 そう言い置いて、三蔵は休憩場を出て行った。 「どうしたんだろ?」 「悟浄の嬉しそうな顔に不吉な予感でもしたんじゃないですか?」 「人聞き悪いこと言うなよ。……悟空、答え教えてやろうか?」 「うん!答え何?」 「三蔵には言うなよ?あれの答えは……」 部屋に戻って、窓際で一服していると、悟空が戻ってくる。 何だか嬉しいのかくすぐったいのかわからない顔をしている。 「どうした」 「え?う、ううん」 ぎこちなく首を振りながら、子供が親にするように三蔵の胸に顔を埋める。 「灰が落ちるぞ」 どうでもよさそうに言って、肺に煙を吸い込んだ。 灰で悟空を怪我させてはいけないので、半分以上残ったまま灰皿に煙草を押し付けた。 「何甘えてんだ。明日も早いんだから早く寝ろ」 「……だって、三蔵と部屋一緒になんの久しぶりなんだもん」 さらりと嬉しげに言われて、悟空の体をどかす気が失せる。 「……三蔵?」 頭に手を置かれ、悟空が顔を上げる。 「あっ……」 骨ばった指に顎を捕らえられ、口付けられた。 ふと、悟浄の言葉を思い出す。 『……悟空、答え教えてやろうか?』 「んっ……」 『三蔵には言うなよ?』 口腔を探られ、思わずしがみつく指に力がこもる。 『あれの答えは……』 酸欠か、それとも口付けに酔ったか、金の瞳が潤み、体から力が抜けかける頃、やっと開放された。 覗き込んだ顔が、何だか感心しているような表情をしているのに、三蔵は眉を寄せた。 「どうした?」 「……ううん。なんでもない」 言わないと約束したから、小さく首を振って悟空は三蔵の胸に頬を寄せる。 少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて。 「……三蔵?」 「ん?」 「…………もう一回、今度は軽くキスして」 『……………あれの答えは、して欲しいキスの長さと深さなんだよ』 |
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