添い寝
布団は干しておいたおかげでふかふか。 でも、悟空はそこで寝るのを嫌がって、眠そうな顔をして30分も駄々をこねつづけていた。 「金蝉、一緒に寝て」 ずっとこの台詞ばかり繰り返している。 金蝉は顔をしかめる。 もういいかげんこのやり取りに飽きがきていたし、悟空を寝かせた後少し仕事を片付けようと思っていたので、こんなことで悟空がぐずるなんて予定外だった。 「隣で寝てるんだから、別に同じベッドで寝る必要はないだろう?大人しく寝ろ」 「やだ。一緒に寝るの。金蝉、俺が寝たらどっか行っちゃうもん」 「…………」 知っていたのか、と内心驚きつつ、溜息をついた。 それもこれも、悟空が昼間捲簾大将に怖い話をしてくれとねだったせいだった。 確か寝ていたら息苦しくなって、目を開けてみたら血まみれの女が髪を振り乱して自分の首を絞めていた、とか、誰もいない部屋で独り言を言ったら、耳元で誰かに返事をされたとか言う、たわいない怪談。 昼間は純粋に面白がっていたのだが、夜になって急に怖くなったらしい。 怖がるくらいなら聞かなきゃいいのに、と考える。 捲簾も、話す間は悟空が喜ぶので楽しそうに話していたが、せがまれた時には後で眠れなくなるのではないかと心配して躊躇していたのだから。 大体、これだけ大きいのに一緒に寝たがるなんて、と思って、悟空が生まれたてだと言う事を今更思いだした。 キ○ー○ー3分間クッキングで、出来上がった料理がレンジから出てくるのとは違うのだから、まったく何も知らないままここまで成長して生まれてくるのはどうよ、とか思っているうちに、悟空は枕持参でベッドの上に上がりこんできた。 「誰がいいといった。降りろ猿」 「えー、いいじゃん。とにかく、俺ひとりで寝んのやだ」 「怖がるくらいなら怪談なんか聞くな馬鹿」 心底呆れてそういうと、悟空はう、と動きを止めた。 「べ、別に怖くなんかないもん」 「じゃあ何だ」 すぐに切り返されて、悟空は黙り込む。 「…………と、とにかく、怖くなんかないの!」 違う理由を言いきれなかった事が図星であるといっているようなものなのだが。 言ったところで、怒るかきゃんきゃん喚くか、うつむいて泣きそうな顔になるか。 最後の一つだけはごめんだし、これ以上言うのは酷かと思い、今伝は溜息一つと共に仕事をすることを諦めた。 「……分かった。一緒に寝てやる」 「本当!?」 明らかに安心したように、嬉しそうに悟空が微笑み、金蝉は悟空が眠れるスペースを作って横になった。 当然のように悟空は縋りつくようにして、金蝉の胸元に顔を寄せた。 さんざん我慢していたせいか、眠りやすい場所を探り当てると、悟空はすぐに寝入ってしまった。 鎖や金鈷の感触が冷たいが、ぎゅっとしがみついてくる子供の体温は否応なしに暖かく………心地良い。 他人が横にいて眠れるだろうか、という心配は杞憂に終わり、金蝉は悟空の寝息に誘われるように眠りに落ちたのだった。 真夜中。 間近でした大きく鈍い音に、金蝉は跳ね起きた。 「な、何だ?」 見ると、ぎゅっと服の胸元を掴んで布地を伸ばしまくってくれていた悟空の姿がベッドの上から消えている。 寝起きの頭では、ベッドの真下あたりから小さな寝息が聞こえたくるのに気付くのが送れた。 そっと覗き込むと、落ちた衝撃すら気付かず眠りこける悟空の姿。 ……………………の手足の周りに、枷の重さのせいで開いた穴。 床のめり込み加減を認めて、金蝉は蒼くなる。 ………これだけの重さの物が、もし寝返りの拍子にでも、体の上に落ちてきたら…………。 慄然として、金蝉は起きる気配のない悟空に毛布をかけてやり、ベッドに戻しはせずに横になりなおした。 下手な怪談よりきつい、身近な恐怖を感じながら。 「金蝉、また一緒に寝て―」 「絶っっっっっ対、駄目だ!」 数日後、二人の間にそんな問答があったが、この場合悟空にも、もちろん金蝉にも、責められるところはないだろう。 |
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