ー情けー
額の金鈷を外して、暴走して、傷つけて。 「………はい、じゃああんまり動いたりしないようにしてくださいね。骨がずれたままくっついたりしたら危ないですから」 「ああ、サンキュ。……あー、包帯が蒸れて気持ち悪ぃ」 目の前で八戒が悟浄の胸に包帯を巻くのをじっと見ていた。 八戒の包帯はさっき悟浄が、三蔵のは悟浄の前に八戒が巻いてやっていた。 ……自分がつけた傷なのに、満足に手当てもできない。 そう思って、悟空はきゅっと唇を噛み締める。 傷を、ふとした瞬間に痛みに歪む彼らの表情を見るたびに謝りたくなるけど、彼らは謝られる事を望んでいないから。 だから、唇を噛み締めて、じっと見ている。 「蒸れるからって掻いたりしちゃ駄目ですよ。じゃあ、おやすみなさい」 「ああ。おやすみ」 八戒が悟空にもお休みを言ってくれるけど、返事をしなかったら心配そうな顔をされた。 「八戒」 悟浄が呼ぶ声に八戒は彼の方を向き、少しして頷いた後、もう一度お休みを言って自分の部屋に戻っていった。 「……何しけた面してんのお前」 厭きれたような声に、少し目を丸くして悟空は顔を上げる。 「じーっと傷の手当て見てたけどよ。ヤローの体見て楽しいか?」 自分のベッドに向かいながら、悟浄は背中越しに明るい声で話し掛けてくる。 「……………って」 掠れた声の泣きそうな響きに気付き、悟浄は掛け布団に伸ばしかけた手を止めた。 「………俺が、つけたんだもん。でも、手当て、できないから………」 手当てはできないから、せめてちゃんと逃げずに見てる。 言外の意味を汲み取ってか否か、悟浄は盛大に溜息を吐いた。 「何、お前まだ気にしてんの?」 浮上したと思ったのに、と言われ、悟空は泣きそうに顔を歪めた。 そう。自分でも浮上したと思っていた。 でも、ふとした瞬間に湧いてくる、罪悪感。 俯いてしまった悟空に、一度口を開きかけて、閉じて、頭を掻いた後、悟浄は悟空が座っている床の横に腰を下ろした。 「だから、言ったろ? 結果オーライだって。あん時ゃああするしかなかったんだよ」 言っても悟空が顔をあげないので、悟浄の眉間に三蔵よろしく皺が刻まれる。 沈黙も嫌だし、何を言ってもこのまま無反応だったら嫌だから、俯く悟空の髪をわし掴んで顔を上げさせた。 痛い、とも言わない。相当重傷かも知れない。 「………もう一遍この前と同じ事繰り返されたいわけ、お前」 悟空は眉を寄せ、口を引き結んでいる。 「あん時はああするのが一番よかったんだし、お前がやったことは間違いじゃねえよ」 手を離しても悟空が俯く気配はなかったので、床に手を下ろす。 正直、腕を上げると傷が痛かった。 「俺は、アソコ筆頭に体は丈夫なんだよ。お前みてーなバカ猿に殺されてたまるか。………殺されてやったわけでもねえのに、殺しちまったみてーな面されっと、腹立つ」 悟空は無言だ。悟浄の言葉を噛み締めるように聞いている。 「…………殺したかったからそれ外したわけじゃねえだろ?」 金鈷を見ながら訊くと、少しの間の後、悟空は小さく頷く。 「そういうつもりでやったんじゃねえことを、誰もいつまでも責めたりはしねえよ。お前も」 お前も、自分を責めるな。 言いかけて、こんなに熱心に何言ってんだか、と自嘲する。 が、言いたいことはちゃんと伝わったらしい。 「何泣いてんだお前」 優しくからかう口調で言われて、悟空はそっぽを向いた。 「……泣いてねえもん」 涙声で返されて、泣いてるじゃん、と突っ込みたくなった。 顔を覗き込むまでもなく、泣いてることは丸分かり。 だけど。 あえて、何も言わないでやることにした。 ああ、その、何つーの? 武士の何とかってやつ。 「バカ猿。早く寝るぞ」 そう言って悟浄は今度こそ自分のベッドの掛け布団を捲った。 きっと、今は放って置いたやったほうがいいから。 |
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