外法

面白い話をしてやろう。

ある男ーまあ、15.6だから少年だがーが、山中をさ迷っていた。
己を呼ぶ声が聞こえたからだ。
さ迷ううちに、何者かによって作られた岩牢の前に着いた。
夥しい数の札と、その牢の雰囲気に何かを感じたんだろう、用心深く近づいた。
だが、中にいたのは、小さい子供だった。
「………おい。俺のこと、ずっと呼んでたのは、お前か?」
そうだと分かっていながらも、少年は尋ねた。
子供は間の抜けた声を上げて少年を見上げ、間の抜けた顔をした。
「俺…誰も呼んでねえけど。あんた誰?」
呆けきった言葉に、すかさず切り返す。
「嘘だね。俺にはずっと聞こえてたぜ」
そう、ずっと、ずっと呼ばれていた。
「うるせーんだよ。いいかげんにしろ。…だから」
そう、一緒にいたいといったから。
……言ってくれた、から。
「連れてってやるよ。…仕方ねーから」
そう言って、手を差し伸べた。
子供は少年の顔と手を交互に何度か見た後、おずおずと手を差し出した。
そして、少年の手の温もりを感じた瞬間に、嬉しそうに笑った。
その、喜びに輝く黄金の瞳。
美しいと、思った。
それを気取られないような仏頂面のまま、牢から出そうとした。
だが、その時。
子供を戒めていた鎖が、はじけた瞬間。
「……あ」
子供が声を上げ、触れていた手が、体が、びくりと震えた。
何事か、と思った瞬間。
ぐらりと、子供の体が傾いだ。
手を差し伸べる。
が、その手に、人間の重みは乗ってこなかった。
乾いた音がして、白い物体と何か茶色の物体が、手をすり抜けて地面に落ちた。
手の内に残った、子供が身に着けていた衣服と、軽い白い物体。
何が起きたのか分からないうちに突風が吹いて、元は先ほどの子供を形作っていた物体が風に待って飛んでいく。
封印が解けた瞬間に、今まで封じられていた時間が一気にあの子供にのしかかったのだ。
それを理解するのに、本当に長い時間がかかった。

少年はそこにじっとしていた。
夜になると、少年は牢の中からゆっくりと、骨を一つずつ取り出した。
ほんのちっぽけな子供の骨だ。それを一つ一つ、丁寧に取り出した。
頭蓋には、髪が絡まった金の冠が付いていて、髪を取り外してそれも取り出した。
そして。
少年は外法を行った。
甦生の法だ。
僧籍は持っていたが、その少年に信心なんざなかったから、別に罪悪感なんざなかったんだろう。
ただ、自分を見て笑った金の瞳だけが頭にあった。
果たして、それは形を成していった。
それは、もとの子供の姿になり、金の瞳を輝かせて笑った。
妖怪のようだが、少し違う。
それは、名を孫悟空と名乗った。

12345HITのキリ番リクエストその1。


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