702号室の奥様

そこは、買い物には便利だけど別に都会というわけではない、ありふれた町にある、快適ではあるけれどそこまで広いわけではない、まあ中くらいのランクのマンション、「コーポウエスト」。
一階に二部屋ずつ、全十一階建ての建物の七階には、二組の御夫婦が住んでいました。
とっても仲睦まじいお二組は、ご近所でも評判のラバップルでした。
今日は、702号室にお住まいの八戒奥さんのある日の風景を覗いてみましょう。

お昼ゴハンのあと、八戒奥さんはアップルパイを作りだしました。
昨日テレビで美味しいケーキ屋さんの特集を見ていたときに、旦那様の悟浄さんが食べたいといっていたのです。
ちょっと手間はかかりますが、自分も好きだし、何より旦那様のためなら頑張って作ろうと思います。
リンゴのカラメル煮はもう少し煮た方が美味しいし、パイは今寝かせているので、リンゴの火加減を見ながら台所で本を読んでいました。
丁度クライマックスに差し掛かったところで、一階にあるチャイムがなって、八戒奥さんは少し残念そうに立ち上がりました。
「はい」
『クリーニング屋です。お届けに上がりました』
「ああ、はい。ご苦労様です」
どうやら、旦那様が出しに行ってくれた洗濯物が届いたようです。
でも、悟浄さんが「ちょっと気持ち悪い」といっていたのを思い出して、少し開けるの厭だな、と思っていると、ドアフォンがなりました。
「はい……」
一応愛想良く答えてドアを開けます。
が、その途端外にいた男の人に突き飛ばされて、台所の床に転ばされました。
「奥さん! 我はずっと貴女のことを……!」
言いながら、男の人はびっくりしている八戒奥さんにのしかかってきます。
八戒奥さんは知りませんでしたが、その男の人は先日この部屋に細工をして、管理人室に連れ込まれた銀髪の人でした。
夢見るストーカーな彼は、八戒奥さんにちゅーしようと顔を近づけてきました。
悟浄さんの言っていた通り、少し気持ち悪いです。
「奥さんっ!!」
「厭ですー!」
必死で暴れました。が、男の人は結構力が強い八戒奥さんより力が強いのです。
「いやー! 悟浄、悟浄ー!」
このまま男の人に酷い目に合わされるかと思われましたが、八戒奥さんはただのぐうたら奥さんとは違います。
通信講座で、気功を習っているのです。
「……触らないで、下さい!」
思い切り気をためて、八戒奥さんは気功で男の人を玄関まで吹き飛ばしました。
そしてそのまま着衣の乱れを整えつつ、後ろに下がります。
そこで、702号室のドアが一気に開かれました。
「八戒、大丈夫か!?」
悟浄さんです。
右手にはドリルを持っています。工事現場から走ってきたようです。
「悟浄! 僕、僕怖くて!」
八戒奥さんは悟浄さんの胸に飛び込みました。
気功を放った時の雄雄しさは微塵もありません。可憐な乙女モードです。
悟浄さんも床に転がっている男の人に目もくれず、八戒奥さんを抱き締めます。
八戒奥さんが雄雄しく技を繰り出したことなど、アウトオブ眼中のようです。
「大丈夫か?」
「はい、何とか………」
「お前に何かあったらどうしようかと思った…」
「悟浄が助けに来てくれると思ってました」
ここぞとばかりにいちゃいちゃしている二人の後ろで、男の人が死の縁から生還しました。
それに気付いた悟浄さんが、抱き締めあったまま八戒さんに尋ねました。
「こいつどうする? 警察呼ぶか?」
しばらく考えて、八戒奥さんは微笑みました。
「管理人さんに預けちゃいましょうvv」
……それから、その男の人がコーポウエストに近付くことはなかったそうです。

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12345HITのキリ番リクエストその2


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