この丘は

遊んでいる子供達を眺めながら、年かさの尼僧が木の下にいた。
子供達の相手を他の尼僧に任せて、自分は少しだけ休憩をしているのだった。
今日はとても天気がいい。太陽に暖められた草花の香りが風に乗ってやってくる。
木陰にいると、日向で遊ぶ子供達がどこか遠く感じられた。
ふと、思い出す。
このように遊びに来て、ずっとこの木の下で本を読み続けていた黒髪の子供の事を。
あの子もまた、このような気持ちになったのか、と考え、いつでも凍りついたままだった緑の瞳を想った。
その時、走り回っていた子供が二人、ぶつかって転んだ。
思わず立ち上がりかけて、尼僧は目を見開いて立ち尽くす。
二人の青年が、丘の上の道から子供達のところに駆け下りて来ていた。
一人がしゃがんで子供達を助け起し、もう一人は屈んで立たせてもらった子供に大丈夫かどうか聞いている。
屈んでいるほうの青年の髪の色は、遠目にでもそれと分かるだろうワインレッド。
そして、しゃがんでいるほうの青年の髪の色は、漆黒。
紅い髪の青年が、涙を拭きながら頷いた子供の頭をやや乱暴に撫でて姿勢を正す。
子供の服についた泥を払ってやった黒髪の青年も、優しく頭を撫でてやって、また遊びに行かせて、立ち上がった。
大人しそうな印象の、黒髪の青年の瞳は、木の葉より深い緑色。
その青年が、立ち尽くす尼僧を視線にとらえる。
………今はもう切羽詰った感のなくなった、優しい眼差し。
よく見知った、しかし自分の知っているものとは全く雰囲気の違う面差しを見つめ、尼僧は声をかけることも出来ずにただ青年と見詰め合った。
やがて、青年がゆっくりと頭を下げた。
そして、後ろで見守っていた紅い髪の青年のほうを向いて、首を傾げた。
紅い髪の青年の問いかけに頷く動作を見せた後、そのまま振り返らずに歩き出す。
言葉もなく。
尼僧はただ、二人の背中が道の向こうに消えてしまうまで、ずっと見つめ続けていた。



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