SEVEN

虫の声さえ聞こえない、静かな肌寒い夜である。
『三蔵』がいるということだけで必要以上に栄えている寺の、一室。
しんと冷えた闇の中で、一人の少年が悪夢に囚われていた。
冷や汗が浮き、金糸の髪が額に張り付いている。
夢の中で、その紫玉の瞳が見ているのは、冷たい岩牢。
格子に貼られた、己を封じる札。戒める、重い鎖。
冷たい風に剥き出しの腕の熱を奪われる。
手足の体温を、金属の枷に奪われていく。
暖を取るものはなく、ただ独り震えるだけ。
見上げた月さえ、無表情に冷たい。
聞こえるのは、自分の息遣いと、硬い鎖の音のみ。
気の狂いそうな閉鎖感。
そして、諦め。
………………空虚。
永久(とこしえ)の、孤独――――――。

奈落に突き落とされるような感覚に心臓が跳ねたかと思うと、夢の腕(かいな)から抜け出せていた。
喉の奥から、引き攣れた悲鳴が漏れる。
「………………江流?どうかしましたか?」
額に浮いた汗を寝間着の袖で拭い、張り付いた前髪を手櫛で梳かしながら、優しい師の声を聞く。
「いえ……。何でも、ありません」
「真っ青ですよ。……怖い夢でも?」
抱きしめられ、ぽんぽん、と安心させるように背中を叩かれる。
ほんの小さな自分が、不安にならずにいられる、温もり。
きっと、あと数年したら自分がこの温もりを返すことができるだろう。いや、返したいと思う。
この温もりが、自分の本当の居場所だ。
……………では、あの冷たい孤独は一体何者のものなのか。
もはや何を望むこともなく、星降る夜空を見上げる、空ろな瞳は。
この、頬を濡らす熱い物は。
「大丈夫ですよ。さあ、眠りなさい」
言われて大人しく目を閉じた。
心に、解けぬ疑問を抱いて。

その晩から7年後。
温もりを返す相手を失った、少年は。
500年の孤独から、一人の子供を救い出すことになる。
………引き千切られるような痛みを超えて。
少年が、誰かのかけがえのない黄金になれるまで。
あと、7年。


+ブラウザバックで戻ってください。+

[PR]動画