世にもビミョーな物語。

一月一日。快晴。
「三蔵さん、悟空、明けましておめでとうございます」
「よお、生臭ボーズ、馬鹿猿。あけおめのことよろー」
悟浄と八戒が新年の挨拶にやってきた。
「あ、八戒、悟浄! おめでとー!」
みかん(悟空の前に三つ皮だけ残っているから、多分四つめ)を片手に、悟空が嬉しそうに顔を上げた。
「悟空、三蔵さんはどこに行ったんですか?」
本来のこの部屋の主を目で探しながら、八戒は悟空に尋ねた。
「んーとね、昨日の夜からずーっと、『セッポー』で『ホンドー』に行ってる」
「ああ、仕事中ですか」
「大変だねえ、『三蔵様』は」
言いながら、二人は各々好きなところに腰を落ち着けてみかんを手に取る。
悟空が七つ目のみかんを腹に収めた頃、やっと三蔵が戻ってきた。
眉間にはくっきりしっかりと皺。目の下にはくま。心なしか、頬の筋肉は引きつっている。
それに動じず(と言うかこれが日常なので)八戒と悟浄は声をかける。
「三蔵さん、明けましておめでとうございます」
「よお三蔵、あけおめー」
それに一瞥をくれたが、三蔵は何も言わずにそのまま椅子に座り込んでしまった。深く溜息をつきながら、会議明けのリーマンのようなかったるさで煙草を探している。
大晦日の夜からぶっ続けで、説法をさせられてきたのだ。まあ、疲れているのだろう。
もしそれに順ずることをさせられるとなったら、普通はごめんこうむる所だろう。
それを理解しているから、二人はそれ以上声をかけなかった。
「なー三蔵」
三蔵が煙草を半分まで吸い終わったところで、八つ目のみかんを半分食べ終わった悟空が声をかけた。
三蔵は無言で視線を向ける。
「お年玉は?」
その発言に、八戒と悟浄は内心かなり驚いていた。
失礼だが、まさか三蔵が毎年悟空にお年玉をあげているとは思っていなかったのだ。
一応八戒も悟空のためにお年玉を用意していたが、三蔵次第で渡すかどうか決めようと思っていたのだ。
三蔵が悟空に常識を教えている(?)ことに妙に感心しながら、八戒は持ってきたお年玉を出そうとした。
だが。
悟空に三蔵が渡した(または放った)『お年玉』を見て、その手は止まった。
「わあい、ありがとー♪♪」
嬉しそうに悟空が受け取ったのは、いろいろなお菓子が入った袋だった。
まあ、それはいい。
物をお年玉として渡すのは自然なことではあるし、悟空にはこちらの方が嬉しいはずだ。
だが、しかし。
悟空が貰った『お年玉』は、『ご仏前』というのしが貼ってあった。
……仏前に供えるために檀家の人が持ってきたものらしかったのだ。
「…………」
確かに、三蔵と悟空の生活費全般は、檀家からの布施で成り立っているはずだ。
三蔵が渡したこの菓子だって、悟空の腹に治まるのは普通のことなのかもしれない。
だが、仏前に供えられることもなく横流しされ(いや、多分供え終ったあまりものなのだろうが)そのまま『お年玉』として利用されるというのは……。
「……………ビミョー」
思わず悟浄が呟いたとおり、凄く微妙な気分だった。
二人の何とも言えない気持ちに気付かず、悟空はその「お年玉」を喜んでした。


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