疑問

『何故、あの者に声が聞こえたのでしょうか。』
尋ねると、彼は今更何を、という顔をした。
「あの小僧が呼んだからだ。決まってんだろ?」
『でも、あの子供が呼んでいたのはあの者の前世で……。』
「やつの魂自身を呼んだんだ。それは関係ないだろう」
面倒くさそうな仕種と表情で彼は手を振った。
その顔は、子供が太陽と重ねた青年によく似ている。
『では、あの子供が欲しているのはあの者の魂であって、あの者の人格ではないと?』
「それはないだろ」
あっさりと彼は否定する。
『魂の形とその人格は付随するものだから、ですか?』
「……か、どうかは知らんがな。それも違うだろ」
彼はひどく優しい笑みで首を振る。
<自愛と淫猥の神>と評されていながら、彼の時折見せる優しい顔は確かに、<慈愛と慈悲の神>のそれであるのだ。
「あの小僧が、いくら[目に見えぬものを悟る者]であっても」
愛し子を抱く母のような顔で、しかしいつもの不敵な瞳で、彼は言った。
「子供ってのは、形のある物が無いと不安になるもんだろ?」


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