ホワイト クリスマス

(一応)最高僧と「信仰?何それ、おいしいの?」と言うような人間にクリスマスもくそもなく、悟浄の家で行われた、クリスマスパーティーと言うより忘年会にほど近い飲み会(悟空には食べ会)の席で、唯一クリスマスらしいのはスーパーで一本250円したローストチキンのみだった。
乾杯の音頭だけ辛うじて「メリークリスマス」だった(三蔵は言わなかった)その飲み会も、料理と酒のストックがなくなって緩慢に終わっていった。
「っあ〜、久々に調子に乗って食ったっつーか、食いすぎたっつーか」
「俺まだ足りない〜」
「……もう冷蔵庫の中空っぽだぜ?」
「バターでもなめてろ猿」
「猿じゃね〜ってば!」
「確か、バターももうなかったと思いますよ」
「げ、マジ?マジで空っぽ?」
「調味料だけは残ってますけど」
「……それ食いモンじゃねーよ」
箸を置いてそんな会話をしていた四人だが、やがて八戒が重ねた皿を持って台所に行き、悟空と悟浄も使ったコップや皿を台所に持っていく。
三蔵だけがそ知らぬ顔で新聞を広げだしたが、狭い流しに男四人が殺到しても無駄にむさ苦しいだけなので、不問に処すことにする。
「お、雪じゃん」
悟浄が不意に、あまり感慨もなさそうに呟いた。
その声に反応して八戒と悟空がほんの少しだけ開けた流し台の上の窓に目をやると、悟浄の言うとおり、夜の闇に白い物が混じっている。
「あ、ホントだ!雪降ってる!」
弾んだ声で叫んだ悟空は、もっとよく見ようと窓を思い切り開けようとして、寒いからやめろと悟浄に止められた。
「ホワイトクリスマスですね」
ほんのりと嬉しそうに八戒が呟く。
「積もるかな〜」
嬉しそうな悟空の言葉に、この分なら積もるんじゃないかと、ほんの少し嬉しそうな声で悟浄が答える。
そんな二人の会話を、三蔵は聞いていながら顔すら上げなかった。
八戒はというと、微笑ましげに二人を見ながら洗った皿の水気を切って。
また新しい汚れ物に手をつけながら、あくまでのんきに言った。
「ああ、でも下手に積もったら僕たち餓死ですね、確実に」
「「………え?」」
八戒の口にした不吉な単語に、悟空と悟浄の聞き返す声がダブる。
二人のすごく引きつった笑みと、八戒の言葉に顔を上げた三蔵の怪訝そうな表情を普通に受け止め、八戒はにっこり笑って言った。
「だってほら、さっき冷蔵庫の中空っぽって言ったじゃないですか」
何にも食べるものないです、となんともなさそうに言う八戒に、悟空と悟浄の顔から血の気が引いていく。
悟浄の家は商店街などからは少し離れたところにあり、普通の時でも少し出入りに苦労するような立地だったりする。
そんな場所で、もしも大量に雪が積もれば、完全に外界から遮断されてしまう。
もちろん、行こうと思えば商店街に行くことくらい、できなくもないのだろうが、もしも明日、地面が凍結していたら出かけることも不可能になり。
一食や二食死ななくても死にはしないが、もしも万が一雪が大量に積もってしまったら、なかなか溶けないような立地でもあったりする。
「……マジで、何にもないのかよ?」
恐る恐る言いながら、悟浄が冷蔵庫を開ける。
悟空も、悟浄以上に真剣な表情で冷蔵庫の中を見つめる。
「………うわ〜、カレー粉とケチャップとマヨネーズは入ってんじゃん。ラッキー……」
力なく悟浄が言い、本当にそれだけしか入ってない冷蔵庫を見つめて、悟空の顔が泣きそうにゆがむ。
「……八戒、ラーメンとかスパゲッティとか、ない?」
「それが、さっき食べたナポリタンで終わりだったんですよ」
「………」
八戒の朗らかな、とても危機感があるようには聞こえない声を聞きながら、悟浄はそっと冷蔵庫を閉めた。
静まり返った室内に、八戒が食器を洗う音と、天気予報をするアナウンサーの朗らかな声だけが響く。
『…………地方は、雪。山間部は吹雪となる恐れがあります。ご注意下さい』
「………」
……ご注意したら何か事態が好転すんのか。
ちょっとぶちきれそうな気持ちで三蔵が思い、ラジオの電源を消す。
さらに静かになった室内で、男四人(八戒はもしかしたら例外だったかもしれない)は切実に思った。
絶対に積もりませんように!
………クリスマスムード一色な世間一般とは180度異なる事を切に願うが、無情にも、雪は降り続けていた。

2004,12,25


+ブラウザバックで戻ってください。+

[PR]動画